問題:

2本の視軸が一組の眼鏡レンズとそれらの光学的中心の真下1cmの点で交差する時どれだけのプリズムが誘起されるでしょう?(OS:12D;OD:102×180°)。

 


答え:

誘起されたプリズムはd×P

(1cm)×(12D)12Δ

これはマイナスレンズですから、プリズムの基底(レンズの最も分厚い部分)は下です。

 

 

誘起されたプリズムはd×Pd1cmですがPはいくらですか?

垂直経線におけるこのレンズの屈折力は球面円柱の構成要素から得られます:球面の構成要素は−10D:円柱は+2D。(+2×180°はその軸の180°では屈折力がありませんが、垂直経線には+2Dあります。)だから垂直経線において合計したPは−8Dで、誘起されたプリズムは8Δ基底下方(Base Down)となります。


 

 

 もし8Δの基底下方プリズムが両方のレンズによって誘起されたら、プリズム効果は2つの目にはつりあいがとれているので患者にとっては現実の問題はありません。物体はその本来の位置から上方に(頂点の方に)置き換えられるでしょうが、大きな悲劇は起こしません。物体のそのようなつりあいのとれた“プリズムによる置き換え”は通常度の強いプラスあるいはマイナスの眼鏡レンズによって患者には顕著になりますが、彼らはその存在をすばやく調節する傾向があり、それによって悩まされる傾向にありません。

 

 しかし、2つの目の間に生じたプリズムにがある患者には、上記の臨床例のように問題が起こり得ます。右眼(OD)より左眼(OS)4Δ大きな基底下方(Base Down)のプリズムがあるのです。もし患者が各々のレンズの光学的中心から1cm下方の点を通して読もうとしたら、彼は垂直に4Δずれた2つの網膜像に遭遇しますが、それは彼が垂直の運動性融像を使って補償するには大き過ぎるかもしれません。老視のない人は通常問題ないでしょう。彼は両方のレンズのプリズム効果がない光学的中心をまっすぐに通って見るようにして読むために、頭を回転して矯正レンズのこの部分をやっかいなもののように避けます。これは彼の問題をきちんと解決します。しかし、老視の人は問題を抱えています。遠方矯正の光学的中心を通して見ることができないでしょう。というのはそこには彼が失った調節に取って代わるのに十分なプラスの屈折力がないのです。彼は通常遠用眼鏡の光学的中心の下に位置する二重焦点(bifocal)部分として組み込まれた読書用の加入度が必要です。これはプリズム力が生じるレンズの部分を通して彼に読むようにさせるのです。しばらくしてもっと詳しく二重焦点を見る時に、私たちはこの“差動プリズム”問題とそれを解決する方法を見るでしょう。

 臨床的には2枚の矯正レンズの光学的中心とそれに対応する視軸の整列はとても重要です。これらそれぞれの変数は測定されなくてはならず、眼鏡技術者にとって日常的な仕事の1つになります。軸の真の隔たりを決定するのは容易ではないので、その近似値で測定が単純な瞳孔間距離を用います。もし矯正眼鏡レンズの光学的中心がそれに対応する瞳孔の真っ正面に並んでいるならプリズム偏位は生じません。両方のレンズが等しい矯正度数で、視軸がそれぞれのレンズの同じ位置に突き刺さるようにレンズの後ろで目が回転すると、誘起されたプリズムはそれぞれの目の回転に同じように影響するでしょうから、再び異なるプリズムが生じることはないでしょう。しかし、レンズの光学的中心の間隔が瞳孔間距離(P.D.)よりも長かったり短かったりすると、もしくはこれらの矯正レンズの屈折力が等しくないと、それぞれのレンズの幾何学的に同じ位置に異なったプリズム量が生じるでしょう(上部右方、下部左方、その他)。

 典型的な問題は次の通りです(図は患者の側から描かれています):


 

 


光学中心間距離は60mmです。患者のP.D.70mmです。もし眼鏡レンズが両方ともに−6Dであれば、それぞれのP(視軸がレンズを突き通るところ)では(0.5cm)×(6D)となり、3Δ基底外方(Base Out)のプリズムを生じるでしょう―2つの目を組み合わせると合計して6Δ基底外方の効果となります。基底外方プリズムは像をそれぞれの目の内側に偏位させ、それゆえ2つの像の感覚性融像が起こるためには目は無限遠の物体に対し6Δ内よせし過ぎなければなりません。この内よせの要求は妥当かもしれないし、そうでないかもしれないのです。つまり、それはこの患者にとって手助けになるかもしれないし邪魔になるかもしれません。患者が関係する限り、どんな場合でもあなたはいろんなレンズのさまざまな点において生じたプリズム量をすばやく決定し、それが生じる効果を理解すべきです。

 マイナスレンズのプリズムによる置き換えのことはそれくらいにしておきます。プラスレンズによって生じるプリズムはどうでしょうか?あなたが予期するように、プラス矯正レンズで同じ位置を通して見ることは軸外の物体を見るために目のより大きな回転を必要とします。

 下図でθは存在するレンズなしで目の節点に向き合っている物体の角度で、θは同じ物体をレンズを通して見た時の角度です(再び目の節点に向き合っています)。


 


 あなたが分かるように、無水晶体眼の高屈折プラスレンズは特に“物体の置き換え”を生じがちです。(上に示した物体はレンズの軸から離れるように置き換えられます)。これは無水晶体眼患者に目と手の協応を狂わせる可能性があります。たとえば、彼が(彼の眼鏡の下部を通して見ながら)食べる時、彼は物体が拡大され近付いて見えるだけでなく(あなたはもう思い出せるでしょう)、それらは下方に置き換えられていることにも気付くでしょう。これら3つの効果の組み合わせ(その他に光学的な像の歪曲収差を加えます)は無水晶体眼用眼鏡に“慣れる”ことを特に難しくするのです。だから無水晶体眼の患者には寛容になってください。彼らは症状を作り話しているわけではありません。