第1章 光:物理学的側面[1]

通常物理光学の表題の下に記述されている光のいくつかの根本的な性質は、多くの視覚の生理学的現象を把握するための基礎として理解されなければなりません。

視細胞を効果的に刺激する“光”は電磁放射の形であり、とても広いスペクトルを持つエネルギー形態です。それは光が産出する特別な効果により私たちには見極めることができます。エネルギースペクトルの一端は、光、レーダー、テレビ、放送、力の伝導などの情報の搬送波として機能する部分を含み、もう一方の端はとても高いエネルギーであるガンマ光線、X線、そして宇宙線です。

この電磁(EM:electromagnetic)スペクトルを記述する2つの別々な方法が発展しました:

(1) 量子の説明は放射を固有振動周波数を伴うエネルギー粒子として扱います。私たちがエネルギー効果(吸収、熱、その他)に関係する時には、ほとんどいつも振動周波数(ν)に関係します。というのはエネルギー量はいつも振動周波数に正比例するからです。(2) の説明は放射を変化する波長として記述します。この分析は、観察されるいくつかの現象である、回折、干渉、そして偏光を記述するには良いようです。

 ゆえに、もし光が片方の範疇で考えられれば、他方よりもいくつかの現象がもっと便利に解釈されるかもしれません。量子論は放射体から発散している光や視細胞の光受容体に吸収される光の記述を供給します。一方、波動論は角膜や水晶体に入っていく光や、スリットや瞳孔の開口に押し通っていく光をきれいに記述します。

 スペクトルを見るこれら2つの方法はお互いに排他的ではありません。どちらの理論も観察される事実の説明には必要ですから、どちらも間違っていません。

 真空中では電磁スペクトルの波もしくは粒子の速度は不変です。波、振動周波数、伝播速度は全て公式c=νλによって関連付けられます。ここでは、

        c=真空中の光速度(cm/sec)

        ν=1秒間の振動

        λ=波長(cm)

この表現はもっとよく知られている関係の表現である、車が一定の割合で動く場合に与えられた時間でどれくらい進むのかを決定する公式と詳細に結びついています:

                距離=割合×時間

                        d=r×t

                        r=d×

 ところで、    λ(波の波長)はdに等しい

        ν(振動周波数(cycles/sec))はに等しい

               c(速度もしくは進行の割合)はr

               r=d×は c=λν になる

これは真空中を進んでいる電磁波粒子には真実です。cで示された真空中の光線の速度は自然の中の最も特有な定数の1つであり、およそ1秒間に3×1010cmです。

 光が真空よりも密な媒質に入った時、たとえばガラスであれば、光は遅くなって(すなわち、その速度(Vm)は減少し)波の進行方向は屈折され(つまり曲げられ)ます。その屈折の正確な量はスネルの法則で表現され(n sin i=n sin i)、それは幾何光学の基礎的関係です。(pp.39-41を思い出してください。)

 述べたように真空中の光速度は1秒間に3×1010cmです。他の媒質中での光速度(Vm)と真空中での光速度(c)を比べた比率は媒質の屈折率(n)と呼ばれ、規定の波長に対して一定になります。

                n=

常にVm<cなので、常にn>1.0となります。

 たとえば、もしダイヤモンドが波長555ナノメーター(nm)の光に対し2.42の屈折率があれば、その波長λにおいてはダイヤモンドの中での速度はいくらになりますか?

               

 全ての異なる周波数(もしくは波長)に対して、異なる屈折率があります。つまり、もし白色光がプリズムに入射したら、そこに含まれるそれぞれの波長λは異なる量で屈折されて色のスペクトルが見られます。プリズムは白色光を分散させます。プリズムの分散力は使われるガラスのタイプによって変化します。(分散はレンズと目の色収差の原因となる要素であることを思い出してください。)しかし、それぞれの波長λと関連している屈折率nは実際の波長と線的に関係しているわけではなく、通常赤色光の波長より青色光の波長の方が相対的に広くなっています。(これについては次の回折格子の議論の中でもっと触れます。)

光が密な媒質に入射する時には遅くなり、Vmが減少することは今明らかです。Vm=λνなので、変数(λもしくはν)のうちの1つ、もしくは両方とも減少しなくてはなりません。どちらなのでしょうか?λが縮んで短くなるか、もしくは振動の割合が減少するのでしょうか?それとも両方なのでしょうか?

注意深い実験のあと、光(そして実際は全ての電磁放射)は振動周波数によって最良に特徴付けられます。この単位は放射エネルギーが進んで行く媒質から独立しています。ゆえに私たちの質問に対する答えは次の通りです―周波数はどんな媒質においても実際の速度から独立しているので、一定不変であり続けて電磁気の放射を描写する標準的な方法は周波数です。他方、(真空中における規定の波長λの)光が真空からガラスに動く時には波長はいくらか短くなり、密な媒質から出て行く時には再び長くなります。


量子はνに比例するエネルギーが変化するということについて私たちはすでに話しました。この関係は公式E=hνによって表現され、hは“プランクの定数”と呼ばれています。任意の“光線”のエネルギー、たとえばガンマ線量子のエネルギーと赤色光量子のエネルギーをどのように比較するのかを見るのは面白いです。

 


1.電磁エネルギースペクトル(Riggs[2]から改変されています)

 

 図1(電磁スペクトル)から、ガンマ線のνは約1022で、可視光の赤色のνは1014です:ゆえにガンマ線量子は、つまり赤色光量子の108(100万)倍のエネルギーになります。

 可視光の量子は“光子(photon)”と呼ばれ、ここでもまたそれぞれ個々の光子(それ自身の振動周波数を持つ)はそれと一緒にE=hνで示された規定のエネルギーを運びます。この公式から短波長の光(たとえば紫)が高いエネルギー光子を持っていることは明らかです。紫色光は赤色光の約半分の波長を持っているので、紫の光子は赤色の約2倍のエネルギーを運びます。

 光子は外のエネルギー源が(いくつかの元素の)軌道上の電子を1つのエネルギーレベルの殻からもう1つのところへと叩き出すと産出されるのです。エネルギーの差は光子として解放されます。いくつかの実用的な説明が以下にされています。

 “冷光は、エネルギー(もしくは、“励起している”波長の光)が物質の上に降りかかった時にある固定した特徴がある可視光線を出すいくつかの物質による生産物です。冷光の色と周波数パターンはこの特性を所有するそれぞれ個々の物質の“特徴”です。

電流がガスを通り過ぎる時に典型的な色がついた明るい放射がされ、そのガスは商業的に使われることについて私たちは皆知っています。良く知られている2つはネオン水銀です。ここでは電流の電子が原子から軌道上の電子を高いエネルギーレベルへと叩き出します。これらの置き間違えられた電子の位置は不安定で、ゆえに、それらの正常な“殻”に電子が跳び戻り、特有の周波数やそれゆえの波長λを持った光子を放出します。ガスはゆえに励起され、ある固定波長で多量のエネルギー出力を放出し、中間の波長はほとんどないか全くありません。これは不連続な放射スペクトルと呼ばれ、ほとんどの可視波長でエネルギーを放出する熱された固体が出す連続したスペクトルと対照的です。

冷光の他の例は生物発光(蛍のような)、蛍光灯、テレビのブラウン管、電場発光板を含みます。

“冷光”は物質によるどんなタイプのエネルギー(化学的、電気的、その他)の吸収も意味する一般的な用語で、その時物質はこのエネルギーのいくらかを発光エネルギーとして出します。“蛍光性”は特別なタイプの冷光で、その中に“貯められている”(吸収された)エネルギーも光エネルギーです―通常は紫外線ですが、必然的ではありません。

物質のフルオレセインは蛍光性のよい例となります。臨床的にはフルオレセインは眼疾患の診断で網膜と脈絡膜の血管の流れの様子を説明するためや、眼底撮影のために使われます。人間のリンパ液におけるフルオレセイン染料の“励起エネルギースペクトル”は490nmに集中しています。これは染料を“光ら”せるためにはこの波長に近接する光が眼底に注がれなければならないことを意味しており、そしてそれはこの蛍光性を生じる最も効果的な波長なのです。蛍光を発する物理学的過程では、染料は490nmのλに含まれるエネルギーを吸収し、そして530nmに集中する特有のスペクトルに変換します。光を当てられたフルオレセインによって発せられた黄−緑の白熱光はその特別な染料の“特徴”によってもたらされます。

蛍光性を生じる電気的な働きと対照に、分子の励起(熱によるように)は“白熱”によって発光エネルギーを放射します。生じた全体のエネルギーは温度とともに変化し4の力になります。温度はケルビン温度(273°+摂氏温度の値)で表現されます。熱い固体や液体によって放射されるスペクトルは通常連続的です。固体が熱くなるほど(もしくはもっとエネルギーが供給されるほど)短波長の光がもっと放射されます。

異なる物質は白熱による放射能力に違いがあります。“標準”は与えられたエネルギー全てを放射する理論的に完全な放射体である、“黒体”です。さまざまな温度における黒体放射の曲線は図2に与えられています。、それは黒体を熱するとすでに存在する長波長の放射に短波長のエネルギーが加えられ、ゆえに黒体を“白く”することが示されています。


 


2.白熱源による放射力:グラフは熱源の温度増加に伴う短波長放射の増加を示しています。(Riggsより改変)

 

黒体が規定の“白色”光を生じるために熱せられなければならない温度だけを記述することにより私たちは光源のスペクトル構成を分類でき、それを“色温度”と呼んでいます。熱せられたタングステンフィラメントは2700゜Kの色温度があります。これは黄白色として光源の色を確認します。もし私たちが光源の前に青のフィルターを置けば、フィラメント自身の実際の温度を変えることなくその色温度をもっと青白い方へ上げます。光源と照明の色温度制御はカラー写真と色覚テストで非常に重要です。

私たちは光の量子的性質に関係した2、3の現象について議論したばかりです。波の性質と関係がある電磁スペクトルの現象は今詳述されるでしょう。便宜上私たちの議論は私たちが光と呼んでいるスペクトルの部分である、400と800nmの間あたりに制限されるでしょうが、これはすべての電磁放射についても真であることを理解して下さい。

 



[1] C. C. Thomas出版社の好意によりRubin,M.L.Walls, G. L.:Fundamentals of Visual Science, C.C. Thomas, Springfield, 1969.から抜粋。

[2] Riggs, L. Vision and Visual Perception Chapter 1, pp. 1-38 ed. Graham, New York, Wiley, 1966.