第2章 調節

 正常な目は鮮明な像を形成し網膜上に位置付ける能力を持っており、さらにこの能力は1つに固定された物体距離に限定されていません。目はその力をある限界の中で変化させることができ、物体距離の変化に合わせて調節するのです。目が固定焦点の道具で、無限遠の物体に完全に焦点が合っていると仮定しましょう(下の図A)。私たちが習ったように物体と像はいつも同じ方向に動きますので、もしその物体が目に近付くならばそれに対応する像は網膜の後ろに動くでしょう(下の図B)。(私たちは目の後部が不透明な構造はこの動きを物理的に妨げることをたとえ知っていても、光学的に起きているこの動きについて論じられます)。物体が近付いた時目で光の発散が増加するのを補償するために、目全体の屈折力は網膜上に焦点が合った像を維持しようとして増加しなくてはなりません(もしくは眼球が伸びなければなりません)。目の屈折力が増加するのはとても重要なメカニズムで、鮮明な像を網膜上に“引っ張る”のに役立つのは驚くことではありません。若い目では18ジオプターほど付加的に増加できますが、その目はもうご存知だと思いますがすでに約60ジオプターを所有しています。水晶体によって“自動的”に供給される可変屈折力(0から18D)は調節と呼ばれます。

 


 


 上の略図では多少“誇張”して、“省略”(水晶体のない)眼を動きのある人間の眼にたとえています―ここではそれは簡略化のためにされています。模型眼での屈折力増加の全てはその内部のどこかの代わりに前面で起こっているともみなせるでしょう。そのようにすることで大きな誤差はありませんし、ここでは決定的なことではありません。

 

 子供の時には18Dの調節が有効なので物体を目に−18Dの発散を与えるところまで近付けても大丈夫であり、網膜像の焦点をずっと合わせられます。−18Dとなるu、つまり−5.5cmに対応しているので、物体は5.5cmまで近付けられ、まだ網膜と共役になっています。5.5cmの位置を調節近点と呼び、視軸上のその点は調節が最高に働いている時に網膜と共役になります。

 調節するための目のこの著しい能力は加齢に従って徐々に失われます。それは生理的な機能の1つで生まれたあとすぐに私たちからなくなり始め、70歳までにほとんど完全になくなってしまい、その年までの間ほとんど直線的に欠如していきます。調節の減少は(税金や加齢のように)無情で予測可能であって避けられません。それは老視(“老齢”の視力)となり、水晶体の硬化に基づいていて、臨床的には“調節近点”がなくなることで明らかになります。

 

表3

年齢による調節の減少(Donderの表)

   年齢

  (歳)

  1  5  10  15  20  25   30  35  40  45   50   55   60   65   70   75

 調節の総計

(調節幅全体)

 ジオプター

 18 16  14  12  10 8.5  7.0 5.5 4.5 3.5  2.5 1.75 1.00 0.75 0.25 0.00

 

調節の減少量は40代初めには私たちに徴候としてだけ現れます。というのは残っている調節は平均的な読書距離に必要とされる量にその時近付いたに過ぎないからです。その時必要とされる仕事は個人が所有する調節力を高い割合で消費する必要があり、“倉庫の中”に蓄えをまったくなくしてしまいます。

例はこの点を明らかにします:33cmの距離での読書は通常3Dの調節を必要とします。もしある人が20歳であれば、彼は簡単にその3Dを、そうです、彼の10Dの“倉庫”から供給することができます。しかし、彼の調節の蓄えが年や病気で減らされたのであれば、彼は3Dの供給ができるだけでそれ以上は無理かもしれません。それで、彼は蓄えられた容量なしで彼の最大限の能力をもって仕事をするでしょう。彼はあまり長くこの最大限の努力を維持できませんので、すぐに疲れて彼が読んでいるものの像は網膜上でぼけるでしょう。

彼は読む素材をいくらか遠くへ動かし、彼の調節近点を越えて置いて調節の必要性を減少させることで、その状況を防ぐことができるのです。しかしながら、物体距離の増加は網膜上の像の大きさも減少させますので、いくつかの点でこの方法はだめになります。(拡大の関係を思い出してください。もしuvと関係して増加するのであれば、像の大きさは減少します)。そうすると物体距離の増加は与えられた印刷物のサイズで読むことをより困難にします。だから老視の世界に入ろうとするどんな患者でも、読む素材を調節の必要性を減少させるために遠くへ動かそうとするでしょうが、動かす距離は次の理由で制限されるでしょう:1) 個人が読める最小の印刷サイズ、2)(もっと実用的に)彼の腕の長さ!

 患者がそのような不平を持ってあなたのところへやってきた時、あなたは手助けに何ができますか?まず、読む仕事で照明を増やすことを提案します。網膜像の明るさが増加することできれいに像の細かいところまで判別する能力が向上するので、この方法は確かに役に立つでしょう[1]。しかしながら、これはほとんど確実に患者自身によって経験的に発見され、すでに強い照明を使っているでしょう。他にあなたは何を提供しなければなりませんか?答えは明白です。物体距離が短いために供給される調節では耐えられなくなり、そして老眼自身が屈折力を増加できない時には、光学レンズの製造業者が準備しており熱心に参加してきます。安価な料金で彼は眼鏡枠(これも安いです)に取り付けられる補助レンズを(あなたの処方箋にあわせて)供給してくれるでしょう。このレンズは近見視に必要とされる調節力の全てか少しの部分の代わりをするでしょう。

 平均的な読書距離は全ての目で約40cm2.5Dの調節を必要とします。早期老視の人は“読書用眼鏡”ではめったに約1.0D以上の補助は必要ではないでしょう。彼自身の目は残り1.5Dを容易に供給するでしょう。自分自身の力だけを頼りにする典型的な患者はできる限り彼自身の調節力を使おうとするでしょう。(あとでなぜそうすることが光学的に彼の利益になるのかを見てみましょう。)しかし、約62歳までに彼自身の全体の調節力はたいへん弱くなっていき、40cmで読めるには補助全てにレンズの力が必要になるかもしれないでしょうから、彼はたぶん2.50Dのレンズの“完全な補助”を必要とするでしょう。老眼やその矯正についてあとでもう少し言いますが、なぜ典型的な70歳の老視の人は40cmにおける加入度に2.50D以上必要でないかを今あなたは理解すべきです。しかしながら、黄斑部の病変でより大きい網膜像を必要とするためにもっと近距離(10cmとしましょう)で読まなければならないとすると、このとても近い距離で見るために彼は2.5D以上(ここではそれは+10Dになります)の加入度を明らかに必要とするでしょう



[1] Rubin, M.D. and Walls, G. L.: Fundamentals of Visual Science,

 C. C. Thomas, Springfield, 1969, p.173.