第6節 調節に対する望遠鏡の効果

 天体望遠鏡とガリレイ式望遠鏡両方とも無焦点システムで、遠い物体からの光線が平行光線束でその道具から出ていることを意味しています。この像の光の広がり(vergence)がゼロなので、そのような望遠鏡を通して目で無限遠を見る時には調節力を必要としません。もし物体がガリレイシステムに近付くなら目で見える像には何が起こるのでしょう?

 

問題:

 P1=+10DP2=−20D、その間の距離が5cmになっている、2×のガリレイ式望遠鏡の前面(対物)レンズから20cmに物体が置かれたと仮定しましょう。この望遠鏡を通して物体を見るために必要とされる調節は、望遠鏡なしで目から同じ距離(25cm)に置かれた同じ物体によって要求される調節と比較してどれだけになるでしょう?


 

 


答え:

 物体のP1における光の広がり(vergence)は−5Dです。

            U1P1V1

           −510=+5

 像はP1の右20cmにできるでしょう。

 P2P1の右5cmに置かれるので、P2の物体距離は右15cm(収束)になります。

       U2=+

       U2P2V2

      +6.6720=−13.33D

それで、最終的な像は、つまりP2の前7.5cmに位置します。だから、もし目がP2のすぐ後ろに置かれたらそれは元の物体の拡大像を見ますが、それを鮮明に見るためには13.3Dの調節を及ぼさねばなりません!(望遠鏡なしだと物体は目から25cmにありますから4Dだけの調節が必要でしょう。)望遠鏡を通して近見での拡大が得られますが、それを見るために調節の際に途方もなく大きな緊張の負担が必要です。

 

 練習にもう1つの例をやってみましょう。目から25cmにある物体は同じですが、2×の望遠鏡をもっと短くしてみます。これは+25Dの対物レンズと−50Dの接眼レンズを2cmの間隔にすれば可能です。


 

 


 今         u123cm

           U1=−4.35D

         U1P1V1

       −4.3525=+20.65V1

                      v1=+4.85cm

P1P2間の距離は2cmですからU2(4.852.00)cm=+2.85cm

 ゆえに、      U2

         U2P2V2

        +3550V2

          −15V2  

P2のすぐ後ろに位置する目にとって最終的な像は15Dの調節を必要とするでしょう。

 望遠鏡のレンズはともに近付けられるので(これはもちろん無限遠を見る望遠鏡が2×の倍率を維持するためにそれぞれのレンズ度数に変化を必要とします)、あなたは最終的にはそれらが“無限に薄い”2×の拡大鏡を作ることを視覚化できます。その例では25cmにある物体を見るために望遠鏡を通して必要とされる調節は16Dになるでしょう。

 それに由来するのではないでしょうが、私たちはもう1つの鍵となる関係に到達しました:ガリレイ式望遠鏡を通してどんな点を見るにも必要な調節はその角倍率の2に比例します。しかし、それが全てではありません。必要とされる全体の調節は倍率だけでなく、当然物体の位置にも依存します。私たちの例では通常4Dの調節を必要とする点を見ていました。だから2×の望遠鏡で必要とされる全体の調節は4×(2)216D(上に与えられているように)。それで一般的な関係は次の通りです:望遠鏡を通した全体の調節=(必要とされる通常の調節)×(倍率)21.5×の望遠鏡を通して33cmの距離で見るためには、あなたは3×(1.5)2、つまり6.75Dの調節をしなければならないでしょう。

 

臨床上の注意点:

 調節が必要であることに関してあなたが習ったばかりのことは、無限遠にある物体に焦点が合わされている望遠鏡に応用されます。望遠鏡のシステムは近位の物体に調節できるように作ることができます(接眼レンズの焦点合わせによって、見る人の目に存在する屈折異常を補償することもできるように)。これは調節の緊張を減らせます。特に近くでの使用には全体のレンズが近くで焦点が合うようにした特別な望遠鏡があります。それらを通せば適切な(前もってセットされた)面に置かれた近い物体を見るためには調節は必要ないでしょう。これは手術室であなたが多分使う双眼ルーペに利用されている方法です。それは小さな1.5-2.5×の望遠鏡(先の図で見せたような、たった1-2cmの厚さです)で、比較的近くに固定された作業距離で使用できます。もし外科医によるいくらかの調節の供給と組み合わされたら、目の外科手術には鮮明な視力の有用な範囲が許されます。

 

事実1拡大を生じるどんな無焦点のガリレイ式システムも拡大なしで同じ物体を見るために必要とされる調節よりとても大きな調節量を必要とします。(縮小のガリレイシステムではその反対になります)。

 

事実2:“矯正された”遠視の人にはいつも拡大された網膜像が存在し、そして適切な矯正レンズが目から遠ざけられるに従って拡大は増加します。

 

 私たちはこれらの事実を一緒にすることで、いくつか予想ができるのです。矯正眼鏡を掛けた遠視の人はコンタクトレンズを使うよりも大きな像の拡大を得るでしょうから、近い物体を見るにはコンタクトレンズよりも矯正レンズのほうがより大きな調節が必要であることになります。屈折異常が小さい場合には、必要な調節の増加は重要ではありません。しかし、遠視の屈折異常が45ジオプターよりも大きいとその違いは重要になる恐れがあり、矯正をコンタクトレンズから眼鏡に単純に換えると必要な調節量が増えますから、老視の境界線上にある人が十分に発達した老視の兆候を示すようになります。

 近視の人にとってはその逆があてはまります。矯正された近視の人の網膜像はいくらか縮小する傾向があります。矯正レンズが彼の目から遠ざかれば縮小はより大きくなり、彼の調節の必要は小さくなります。だから、もし老視前の近視の人が(いくつかの特定の理由で)コンタクトレンズ矯正に切り換えると決めたら、特に彼の屈折異常が4D以上であればコンタクトレンズを装用する前にできた気軽さで20cm離して読めないことが分かるでしょう。高度近視の人は彼がそれまで眼鏡が必要でなかったのに反して、コンタクトレンズを補足するために読書用眼鏡が必要になるかもしれません。

 拡大システムによって調節に働く緊張の増加はこれら両方の臨床経験の基礎なのです。

 コンタクトレンズに切り換える近視矯正の人の調節における緊張の大きさを観察するために、具体的で合理的な例を今検証してみます。

 

問題:

 完全矯正された近視の人が角膜から15mmに−10Dの眼鏡レンズをかけています。矯正コンタクトレンズで必要な量と比較して彼の眼鏡レンズではどれくらいの調節が必要なのでしょうか?

 

答え:

 矯正レンズが−10Dであれば遠点はレンズから10cmということです。角膜に置かれた適切な矯正コンタクトレンズは(10cm1.5cm)、つまり11.5cm の焦点距離になり、そのジオプター度数の等価は−8.7Dです。


 

 


 私たちに求められているものは、眼鏡レンズ面から20cmに置かれている物体の最終的な像が2つの“矯正”レンズである−10Dと−8.7Dの各々によって、どこに映されるかということです。

 

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眼鏡の矯正では:

   U1P1V1

    510V1=−15D

         v1=−6.67cm

   v115mmu28.17cm

 ゆえに、目に関する限り8.17cm離れたところの像に調節しなければなりません。だから、目に提示される最終的な像は−12.25Dの光の広がり(vergence)になります。

 

コンタクトレンズの矯正では:

 物体からコンタクトレンズの距離がu1です。

   u1201.521.5cm

        U1=−4.65D

      U1P1V1

    4.658.7V1

        13.35V1

 ゆえに、目に提示される最終的な像は−13.35Dの光の広がり(vergence)になります。


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 両方の例では目は8.7Dの近視(角膜に言及すると)ですから、最初の8.7Dの範囲まで調節する責任から解放されます。だから、−10D矯正レンズではこの目は眼鏡面から20cmに置かれた物体を見るために(12.258.7)、つまり3.55Dの調節をしなければなりません。ところがコンタクトレンズで矯正された目は(13.358.7)、つまり4.65Dの調節をしなければなりません―つまり1.10Dも多いのです!

 (この例から私たちはコンタクトレンズ矯正の近視の人は正視の人と同じ調節量を働かさなければならないと仮定することに注意して下さい。しかし、コンタクトレンズでさえ近視の人はいくらか少なく働かさなければならない可能性があるでしょう。この相違は私たちの模型眼において、近視眼の屈折異常が実際に“存在する” 角膜の後ろの距離を無視したからです。その時この過度な簡略化が原因でコンタクトレンズ矯正は正視眼と等価であると分かるのです。)

 

臨床上の注意点:

 あなたは患者の主観的な屈折に対する最終的な接触を遂行しようとしています。もしあたなが彼の完全矯正に達したあとまだどんどん進んでマイナスレンズを加え続けるなら、患者は視標が小さくなっていくように見えるとあなたに訴えるでしょう。なぜ?

 あなたが加えた余計なマイナスの屈折力が患者の調節を刺激するのです。その調節の増加は彼の目に“組み込まれた”プラス屈折力の増加とみなされます。これら2つのジオプター度数(外がマイナス、内がプラス)は視力を鮮明なままにしようとするなら、お互い正確に“中和”しなければなりません。だから、私たちは既存の頂間距離(目の中に組み込まれたプラスの場所までのいくらかの距離もさらに加えます)で分離された2つの要素によって付加的に“中和された”、つまり無焦点の望遠鏡システムを作ったのです。ここでは“組み込まれた”レンズ(それは望遠鏡の“接眼レンズ”に相当します)はプラスですから、このガリレイシステムはこの目にとっては縮小システムとなります。


 

 


 だから、目の前に余計なマイナスを置くことは患者に小さな逆方向望遠鏡(reverse telescope)を通して凝視するようにさせるのです。マイナスの過矯正が大きくなると、視標を鮮明に保つために必要な調節も大きくなり、ゆえに望遠鏡の縮小効果も大きくなります。