第1節 遠視矯正

 3Dの遠視を使って例を挙げましょう。今までのように、屈折異常に対する参照面は前部屈折面にあり、だから、遠点Rはその面の後ろ33cmに位置しなければなりません。光線は網膜上に像が結ばれるためにRに向かって収束しなければならないでしょうが、無限遠からの光線は平行で、Rに向かって収束しないでしょう、つまり、補助なしではだめなのです。だから、鮮明な網膜像のためにはプラスのレンズが光線に収束を加えるために光路に差し込まれなければならないでしょう。+2Dのレンズを使いましょう。

 もし(定義により)+2のレンズがそのFを遠点Rと一致させて置かれたなら、無限遠の物体のためにこのレンズはこの目を“矯正”するでしょう。+2レンズのF50cmだけレンズの後ろに位置するので、レンズ自身は“矯正”レンズとしての資格を得るためにRから50cmのところに置かれなければなりません。ゆえに、無限遠からの物体光線は+2レンズによってFに焦点を合わせられるでしょう。これらのレンズによる像の光線は目にとっては物体光線となり、Rに向かうどんな物体光線でも網膜上に鮮明に像を映すでしょう。

 


 


 上図では光線345は強膜によって妨害され、瞳孔の中に入れませんので、それらは網膜に像点を形成する手助けはできません。この形では12間の光線だけがレンズによってRに像を作り、実際に目に入ってレンズにより網膜上に鮮明に像が映し出されます。12 “瞳孔”の端によって制限される“制限”光線です。

 もし私たちが角膜に“矯正”レンズを(コンタクトレンズのように)くっつけて置こうとすれば、それはFを目のRに置いた時のような屈折力になるでしょう。これが3Dの遠視なので、この角膜面からRまでの距離は33cmであることは分かっています。よって矯正“コンタクト”レンズは+3Dでなければなりません。

 もしそのレンズがRから200cmに置かれたら、+0.5Dのレンズが使えてこの目の屈折異常を“矯正”できることは今明らかです。3Dの遠視はそれでまだ矯正されるでしょう。

 だから、今与えられた非正視の量を矯正するレンズの屈折力は固定されたものではなく、そして矯正レンズではなくこの目に属する遠点がしっかりと適当な位置にあることが分かったのです。

 私は今苦悩の叫びが聞こえます:“現実的にやってください”。“だれが3Dの遠視の異常に200cmで矯正レンズを装用するのですか?”私の論点はあなたがこのレンズで遠視を矯正するというのではなく、あなたが矯正できるということですから、その問題は議論の予知があります。FRと一致するように置かれる限りでは、どんなレンズでもあなたは使えるでしょう。(あなたはまもなくそのような特別な“矯正”レンズの使い方があることを学ぶでしょう。)

 

 それでは、もっと実用的になりましょう。矯正レンズは眼鏡枠で眼前にレンズを置くのが典型的な使われ方です。ここでは私は眼鏡の一定の位置を指定できますが、これは極めて近い目安としてだけ考えられるべきです。というのは本当の位置はレンズフレームのタイプ、鼻のささえ、患者の眉の形、彼の耳の位置、目が眼窩にどれくらい深く入っているかなどの多くの要素によるからです。矯正レンズが装用されているところはどこでもそこが“眼鏡レンズ面”です。たとえそれは患者によってはいくらか位置が変化しても、それが矯正レンズを処方する参照面となるのです。ここでは勝手に角膜面から15mmにそれを置くでしょう。(角膜と矯正レンズの間の距離は頂間距離と呼ばれます。)しかしながら臨床的には、特に屈折異常の大きい患者ではこの距離は仮定できなくて、測られなくてはなりません。まもなくなぜか分かるでしょう。

 

 (“実用的な”矯正レンズと角膜との間の15mmはレンズを目のほぼ前焦面(anterior focal plane)に置きます。あとでこれが光学的に何を意味するのか取り上げるでしょうが、今“秘密を漏らしてしまうと”、これが臨床的な重要性があまりないことを言っておきます。)


 どんなケースでも、+3Dの遠視眼に戻りますと、“実用的な”矯正レンズは角膜とRの間の距離である(33cm)より15mm長い焦点距離でなければなりません。その矯正力はでなければなりません。

 低い屈折力の矯正レンズでは、“頂間距離”を考慮するかしないかであまり大きな違いはありません。この場合は遠視異常に存在する3Dからたった0.1D違うだけです。(この小さな量は眼鏡技術者のレンズ研摩機でほとんど研摩できません。)しかし、無水晶体眼(次に示す白内障による水晶体摘出)では頂間距離は批判的に考えます。無水晶体眼は通常10-12Dの遠視で、頂間距離の数mmの変化はそのような眼鏡レンズの効果を大きく変化させられます。

 この点を説明するのに次の問題をやってみましょう。

 

問題:

 +12Dの矯正レンズ(頂間距離15mmで測られています)は無水晶体眼のために処方されています。患者の眼鏡技術者が患者の選択に合わせた流行の眼鏡枠に矯正レンズを合わした時、レンズは彼の角膜からたった10mmの位置に合わせられています。このように近距離にレンズを合わせることでジオプター度数の誤差はどれだけになりますか?

 

答え:

 最初にRを位置付けなければなりません―それは屈折異常がどれくらいであるかにかかわらず鍵となる点です。12Dのレンズがこの無水晶体眼を“矯正”することがあなたに与えられているのですから、そのFR上に来なければなりません。F、つまり8.3cmレンズの後ろにありますが、レンズ自身は角膜の前15mmにあります。だからR(8.31.5)、つまり6.8cm角膜の後ろになくてはなりません。(下図Aを見てください)。これでRの位置が定められたので、私たちが望むどのような矯正レンズも目からその望ましい位置に置くことにより使えます。


 この患者の実際の頂間距離はたった10mmですから、彼は焦点距離(6.81.0)、つまり7.8cmの矯正レンズが必要であるべきなのです―+12.8Dのレンズがきちんと処方箋を満たします。(下図Bを見てください。)

 しかし、彼は不注意にも+12.0Dのレンズを頂間距離10mmに合わせて装用していますので、(12.812.0)、つまり0.8Dのプラスの屈折力が矯正不足となっています―確かにわずかの量ではありません。

 頂間距離に注意を向けなくてはなりません。それは遠視にしろ、近視にしろ、乱視にしろ4ジオプターを越える非正視で特に重要になります。