第2節 遠点面

 近視の異常は屈折力が強過ぎるか眼球が長過ぎるかは問題ではありません。どちらの場合でも物体が無限遠であれば目のFは鮮明な像を結ぶところであり、そしてそれは硝子体中のどこかになる網膜の前部になります。物体を目に近付ければ鮮明な像を後ろに動かして網膜上に持って行けます。というのは物体が目に近付くと像面は同じ方向に動くことが予測できるからです。(これは物体と像の動きの法則に従います。)

 物体が近付いてくると、その像が網膜上に正確に映るような物体面のある位置に至るでしょう。その特定の物体の位置は近視の遠点面と呼ばれ、その軸上の位置は遠点として知られています。全ての光線はその面の物点から出て(そして目に入ります)、網膜上の像点に焦点を鮮明に合わせるでしょう。それで定義によれば遠点面は目が調節していない時には網膜と共役関係にある物体面となります。(この定義はどんなタイプの非正視でも真です。)

 物体光線が近視の遠点面を出ていく時は、ある発散を持つでしょう。この物体光線の発散は近視眼の“超過力”の補償に必要で、それで近視眼に鮮明な網膜像を作ることができるのです。必要とされる特定の発散量は“超過屈折力”の量に等しく、つまり、それは存在する近視の量的な測定になります。ゆえに、私たちが知らなければならないのはどこに遠点があるかだけであり、それで近視異常の量を知るのです。だから、近視の患者が物体の詳細を鮮明に見ることができる軸上の位置を見つけ、目からの距離を測ってジオプターに変換してやれば、ビンゴ!もし遠点面が目の前の23cmに位置するのであれば、その目は、つまり4.35Dの近視でなければなりません。

 実際の患者ではあなたのテスト視標で調節を刺激するかもしれないので、このようにして遠点面を位置付けて近視異常を決定するにあたっては注意しなければなりません。どんな視標でもしっかりと近くに持ってくると、目はもっと簡単にきれいに細かいところまで見ることができるでしょう。だから現実的には、近付いてくる視標を維持しようとして遠点を過ぎてしまっているかもしれず、目に(調節できるのであれば)調節を強いるだけになっている時には、あなたはまだ遠点に到達していないと思って迷子になってしまうかもしれません。あなたはその遠点を決めようとしていて、そして私たちの遠点の定義は調節が働いてはいけないということを明確にしているので、遠点を決める間患者は調節をしないことを確認しなければなりません。もし目の調節力を(サイクロジル®もしくはアトロピンのような)調節麻痺薬で麻痺させれば、遠点の位置を測る障害となる調節を恐れる必要はありません。でも、もしぼけたところから鮮明な範囲持ってきて小さな視標の文字を最初の鮮明さを得られる位置でいつも止めるのであれば、調節麻痺薬なしで注意深く遠点位置を決められます。それが遠点面の位置です。

 近視の人は遠点を越える全てのものはぼけて見えるでしょうが、遠点面上、もしくはこの面より近いところでは彼の目は正視と同じように鮮明な像を作り出すでしょう。遠点よりも近い距離では近視もまた鮮明に見るために調節しなければならないのですが、彼は正視の人となる“始まり”を持っており、本来の正視での距離の時より少ない調節を働かせる必要があるでしょう。それは近視の人の目が近視の“異常”と等しい大きさの“組み込まれた”プラスレンズをあたかも持っているかのようであり、だから今近視眼の異常をプラスの屈折異常として考えて行きましょう。

 5Dの近視の人は余分な+5Dの屈折力を持っており、調節力を全く働かせなくても20cmで鮮明に見えます。これと同じ超過した+5Dの“組み込まれた”プラスレンズはたった5Dの彼自身の調節を使うことで10cmの距離で見る手段を供給します。近視の人は同年代の正視の人よりも近い調節近点を持ち、10Dの実際の調節は正視の人に働いている同じ10Dよりも近い距離で見ることを近視の人に許すでしょう。

 例題を解いてみるとこれらの点がはっきりするでしょう:

 

問題:

 4Dの近視眼が8cmの調節近点を持っています。次のことを決定しなさい。

a)   遠点(far point)

b)   調節力(amplitude of accommodation) 

c)   調節幅(range of accommodation)

d)   10cmの距離で詳細な印刷物を見るためにはどれくらいの調節を働かさなければならないですか?

 

答え:

a)     遠点= 、つまり眼前25cm

 

b)     “調節力”は個人が調節できるジオプター度数全体で、焦点合わせするための最大の能力となり、近点と遠点間のジオプター度数の差となります。この近視の人の調節近点は8cmです。これは最大の調節が働いていれば、=−12.5Dの光の広がり(vergence)を持つ点を彼は見られることを意味しています。

  彼は4Dの近視なので12.54、つまり8.5Dだけの調節を8cmの距離で見るために働かせる必要があるでしょう。(正視の人は12.5D全部を調節しなければなりません)。ゆえに、調節力は8.5Dです。

 

c)     “調節幅”は無調節から調節最大のところまで動かせて鮮明に見える実際の距離を言います。

無調節では遠点は25cmです。

調節最大では近点は8cmです。

ゆえに、調節幅は25から8cmまで(17cmの長さ)です。

 

d)     10cm離れたところの光の広がり(vergence)は−10Dで、正視眼からは10Dの調節が必要となります。彼の目は4Dの近視なので、それが“始まり”であり、この物点を鮮明に見るためにはただ(104)、つまり6Dの調節が必要となるでしょう。

 

 この種の問題を扱うにはあなたにとって第2の特質があります。

 

 ここで遠点の概念を紹介したあと、私はあなたに軸性近視を考えてほしいのです―軸性近視とは軸長がその目には長過ぎることだけで起こるものです。だから、ジオプター度数はここでは“正常”で60Dと仮定します。

 

問題:


 もし目が5Dの近視であれば、この目は“省略眼”よりもどれだけ長いでしょうか?

 

 


答え:

 5Dの屈折異常を生じるために、yをミリメートルの数値で表した、正視眼を越える長さの増加としましょう。

 私たちが最初に求めなければならないものは遠点に置かれた物体の物体距離uと対応する像の距離vです。それから私たちはyを決定でき、その値はv22.2と等しくなるでしょう。

 近視が5Dで与えられていますから、遠点は目の角膜前面の前20cmに置かれなければならず、U=−5Dとなります。

        U=−5D

        P60

        V?

       UPV

     −560V

       +55V

像の光の広がり(image vergence)

 ゆえに             

 それで             

 だから             yv22.2

                 y24.222.22.0mm

この線的な距離は軸性近視の5Dを表し、だから1ジオプターにつき、つまり0.4mmの軸の伸長と等しくなります。

 

 では、目のジオプター度数の異常だけである屈折性近視の例を見てみましょう。ここではそれは強過ぎます。もう一度モデルとして“省略”眼を使い、もし屈折性近視の5Dが存在すると仮定すれば、“角膜”屈折力は60Dの代わりに65Dとなるでしょう。

 

問題:

 近視の屈折異常が1Dであるのと等しい軸はどれだけの長さですか?

 

答え:

 無限遠にある像に対する焦面Fは次のように置かれるでしょう:

      


       (“角膜”からの距離)

 

 


ゆえに、F(22.220.5)mm、つまり1.7mm網膜に達していません。

屈折異常1ジオプターはおよその軸の長さと等しくなります。

 さきほどの2つの計算を要約すると:

 純粋な軸性近視では0.4mmの軸の伸長が屈折異常1Dと等しい。

 純粋な屈折性近視では0.34mmの軸の長さが屈折異常1Dと等しい。

 これらの数字は模型眼の近似で、仮の屈折力を“角膜”面に正確に位置付けています。これは実際の人間の目ではそうではなく、人間の目はおそらくいくつかの合理的な屈折力が付加されてできているのでしょう。これにもかかわらず上に挙げた近似値は平均的なものです。もし“平均的”な近視の1Dと等しい軸として0.37mmを平均と仮定すれば、そんなにかけ離れてはいないでしょう。(そのうえ、臨床的には、屈折異常が軸性なのか屈折性なのかどうせ決められません!)

 

臨床上の注意点:

 典型的な近視はおそらくかすかな収差、もしくは目の正常な成長過程で起こる病的な拡張を通して少しずつ発生する傾向があります。しかし、時々なにか正常でない事態が起こり、屈折異常を生じてかなり突然に変化してしまいます。

 たとえば、目をへこませたり網膜を硝子体の方へ向かって押したりして、後ろから目を何かが押すと機能的に目は短くされるでしょう:球後増殖“retrobulbar mass”、脈絡膜腫瘍“choroidal tumor”(黒色腫melanoma、もしくは転移性の病変“metastatic lesion”―通常はほとんど胸)、網膜の上転(色素上皮剥離“pigment epithelial detachmennt”、もしくは中心漿液性脈絡膜症“central serous choroidopathy”の中にさえ見られる)に見られるように。これらの問題は軸長を短くする働きをし、それによって通常遠視方向に屈折異常が増加します。

 他方、異常による変化が近視側に生じたら、問題は通常屈折に関する構成要素(変性近視は除く)に見つかります:円錐角膜“keratoconus”、調節痙攣“spasm of accommodation”、初期核白内障“incipient nuclear cataract”、亜脱臼水晶体“subluxed or anteriorly dislocated lens”や、流動性物質の位置の急激な変化を生じるさまざまな条件(妊娠“pregnancy”、糖尿病“diabetes”、酸性症“acidosis”、調合した薬―スルフォンアミド、浸透性の薬剤、その他)に見つかり、全ては近視の異常を作る傾向にあります。

 患者に前から存在する屈折状態が突然(あるいは比較的速く)変化する時にはいつでも上に挙げた診断上の可能性があることに用心してください。

                           

 遠点の議論を再開しますが、全ての目はそれ独自の遠点―その軸上点は調節が働いていない時網膜と共役になっています―があることを論証しましょう。もうお見せしたように近視眼は無限遠と角膜前面の間に位置する遠点がありますが、正視眼でさえ遠点があります。それは無限遠なのです!