この章の最初に、私たちは遠視眼がマイナスレンズを目の中に組み込んでいるので、遠視眼を“過度のマイナス”が生じたと考えることができると言いました―この“レンズ”がP2です。この“屈折異常”は目の外のレンズP1によって“矯正”されるのです。目からの距離を大きくすると(つまり、頂間距離を大きくすると)、矯正レンズはプラスがより小さくて済みます。最終的に今私たちは矯正レンズの位置と屈折力を変化させた結果とが分かります。矯正レンズが目から遠ざかると、そのプラスジオプター度数は小さくなります。しかし、目に与える拡大の力はより大きくなるのです!だから、P1(レンズの“矯正”屈折力)が減少すると倍率()は増加します。
もし、P1がプラスの矯正用コンタクトレンズであれば、その目のためのその矯正レンズによって生じる倍率は最小になるでしょう―つまり、(眼内レンズ[1]を除けば!)どんな他の位置の矯正レンズによって作られる倍率よりも小さいのです。しかし、コンタクトレンズでさえまだいくらかの拡大が存在することを覚えておいてください。これは目の“屈折異常”が角膜でなく眼中のどこかにあるからです。つまり、“屈折異常”とその矯正である“中和”レンズとの間にはまだ物理的な隔たりがあるでしょう。
臨床上の注意点:
これらの光学的な原理は無水晶体患者のための手頃な工夫の基礎を与えてくれます。私たちはすでに、12Dの無水晶体患者(角膜で測った屈折異常が−12D)が角膜からおよそ25cm離れたところに球面レンズを持ってくれば、+3Dで“矯正”されることを知っています。(あなたはそれがどこに置かれなければならないのか正確に図示することができるはずです!)ところで、そのような“矯正”は、つまり物体の網膜像を4×に拡大したもの(それは300%大きくなります)を彼に与えることは明らかです!この+3Dの球面でできた単純な自作望遠鏡は低視力の無水晶体患者に特に役に立ちます。
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拡大は必要な時はいいのですが、障害にもなります。片眼の無水晶体患者(もう一方の目は正視)の例を取り上げてみます―ここでは、コンタクトレンズの矯正でさえ7%の像の拡大が生じ、正視眼像との感覚性融合(sensory fusion)を妨げるでしょう。私はこのようにして矯正されているほとんどの人達に困難がないことにいつも驚いています!
典型的には平均的な無水晶体眼は角膜から15mmの眼鏡レンズ面に矯正レンズを装用しています。これは約125%の拡大要素を与えます(通常は25%の拡大と書かれ、物体自身よりも25%大きいように見える像を意味します)。しまった!それは本末転倒ですね。矯正された無水晶体で見られる拡大された網膜像と正視眼による網膜像を比較した図をあなた自身で図示できるはずです。しかし、とにかくやり遂げましょう。最初に正視眼です:
物体の角度は物体の先端から目の節点に至る光線1によって与えられます。この光線は軸から角θになります。光線1は(Nを通り)曲げられませんので、網膜像の角度もθになります。(どんな目でも節点光線はすぐさま網膜像角度の参照になることを思い出して下さい)。
では矯正した無水晶体眼です:
この推論に忠実に従います。正視眼とは対照的に、無水晶体眼は目の角膜からここでは約15mm、つまり目の節点から約20mmに位置した矯正レンズが必要です。もちろん、“矯正”レンズの第2焦面は無水晶体眼の遠点面と一致するでしょう。この矯正レンズは無限遠からくる全ての物点の像をその焦面のどこかに映すでしょう。その像点もまた目の遠点面にあるので、無水晶体眼でそれは鮮明に見えるでしょう。
元の物点は(ちょうど正視眼のように)レンズで物体角θに向き合っています。対応している像点はレンズ軸の(節)点を通る光線1によってレンズの第2焦面に置かれます。つまり、もしこの実際の光線が目で遮られなかったら、曲げられずに進み第2焦面(遠点面)と軸から距離hで交差するでしょう。それでこの交点は矯正レンズが元の物点の像を映し出すところです。
それでこうなります。一旦この像が矯正レンズで形作られたら、目はそのレンズに関わらざるをえません。この像点はその目の物点となるので、重要に思えるのはこの像点だけです。この物点は目の節点で角θ’をとります。その時目を参照すると、この“物”点(遠点面にあります)と最終的な網膜像点は両方とも目の節点を通る曲げられていない光線に沿って存在します。(それについては何の疑問もないはずです)。もしあなたがこの光線2が最初にどこから来たのか今知りたいのなら、矯正レンズを通ってその道筋をさかのぼらなくてはなりません。その時、レンズの物体空間ではそれが光線1に平行だったことから、それはそのレンズによって屈折されなければならなかったことがわかるでしょう。(上図に示されたように)。
θ’は網膜像の角度ですから、私たちはそれを元の物体の角度であるθと比較でき、無水晶体用の眼鏡レンズによって与えられる角倍率の表現に到達します。さっきの図に戻って少し幾何学を使ってみます。
tanθ= tanθ’=
再び微小な角では、tanθ=θとtanθ’=θ’ですから
この無水晶体の矯正レンズの例は約10cmの焦点距離があったと考えられますので、f’に10cmを代入します。
ゆえに、
つまり、θ’=125%θ
ゆえに、無水晶体眼のθ’は正視眼における像の大きさθよりも25%大きくなります[2]。
次の図をしばらく勉強しましょう。(思い出してください。遠点は目に関して同じ固定位置に存在し、どのような“矯正”レンズが置かれる場所とも無関係です。)
図A(遠視眼):物体角θが与えられると、遠点面にはその矯正レンズによって作られた、θに対応する像の大きさh1ができるでしょう。矯正レンズP1が目から離れるようにP2に向かって移動するとh1はh2に向かわなければなりません。だからこの像の大きさは長くなるでしょうし、そうなったら網膜像の角度θ’も必然的に増加するでしょう。だから私たちがたびたび叫んだように、プラスの矯正レンズの頂間距離が増えれば倍率も増加します。
図B(近視眼):角θの物体はレンズP1によって近視眼の遠点面の中h1に像を映し出されるでしょう。だから目にとっては元の物体はh1にあるように見えるでしょう。目の節点と向き合う網膜像h1の角度はθ1’になるでしょう。もし今矯正レンズをP2に動かすとh1はh2のほうへ動き、網膜像の角度θ2’は縮むでしょう。だから、ここではマイナスの矯正レンズの頂間距離が増加すると倍率は減少します。
それで、下の遠視と近視両方の図では、P1が目からP2に向かって動くと、h1(遠点面にある)はh2に向かって動くでしょうし、網膜像の大きさθ1’はθ2’に変化します。
上のAとB両方ともに、レンズP1がP2へ動くとh1はh2に向かって動きます。
矯正された近視の人には、あたかも間違った方法で望遠鏡を見ているように、彼にとって拡大が逆に働くのです。これは縮小を導きます―ガリレイ式の逆の効果です。取り付けた彼の矯正レンズを目から遠ざけると、マイナスの力は大きくならなければならず、彼はより大きな縮小を得ます。彼の最大に拡大された視界はコンタクトレンズで得られるでしょう。ですから、近視の人がコンタクトレンズをとても好むのは不思議ではありません。10Dの近視の人は矯正レンズで与えられる網膜像と比較してコンタクトレンズの網膜像の方が約15%大きくなるでしょう。
頂間距離を変化させて得られる拡大と縮小の効果は毎日観察されるたくさんの現象を説明します。近視の人が縮小された空間の物体を見るだけでなく、もしもう1人の観察者が眼底鏡(ophthalmoscope)を通してこの近視の人の眼底を見るならば、彼は正視眼の人の眼底よりも拡大されて見えるのが分かるでしょう。これは彼が近視眼の人の目に“組み込まれた”プラスの屈折異常を補償するために、眼底鏡(ophthalmoscope)の先端にマイナスレンズを使用しなければならないからです。そして“頂点”間隔がいつもあるでしょうから、彼は小さなガリレイ式望遠鏡を通して見ている時と同じような光学的効果を得られるでしょう。マイナスレンズが検査者の目の側にあるので、ゆえに見られる像は拡大されます。遠視眼の眼底像の場合は反対になります。
眼鏡で矯正された無水晶体の患者は大きな網膜像を持ちます。これは与えられた範囲の空間の像は無水晶体眼以前にそれが映し出したものよりも広い網膜の範囲に映し出されることを意味します。その網膜内の点(目の節点に向き合った時黄斑部に対して鼻側に10゜のところにしましょう)は、無水晶体用矯正レンズを通した時の網膜上の点と同様な点から正視眼の場合に投影されるところよりも固視点に近い点になるように、タンジェントスクリーン上の外側の方へ投影されるでしょう。
図を見てください:
中心窩(fovea)はタンジェントスクリーン(tangent screen)上の固視点(fixation spot)と1列に並びます。正視眼では網膜上の点Bは中心窩より10゚下にあり、正常にスクリーンの点B2に投影されます。無水晶体用矯正レンズの存在により、Bは代わりにB1に投影されます。ではタンジェントスクリーンにいる検査者の視点からこの同じ状況を見てみましょう:もし与えられた大きさの試験用物体がかろうじて網膜の範囲B(感度の閾値)で発見されるなら、それはB1に置かれなくてはならず、B2より固視点に近くなります。もしそれがB2に置かれたなら、それに対応する網膜像は必然的にBの下になり、それゆえその網膜の範囲で閾値以下の刺激になるでしょう。
この同じ推論はタンジェントスクリーンに書かれた、矯正された無水晶体患者の視野の等感度線にも適用されます。それらは無水晶体ではない患者よりも固視点に近くなるでしょう。また、盲点も無水晶体ではない患者よりも小さくなり、そして固視点に近くなるでしょう。(明らかに、強度近視では逆が成り立ちます。)高度に非正視で“矯正された”患者の視野を書き込み、そして盲点を調べようとする時は、あなたはこれに気付かなければなりません。
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述べましたように、今までに記述した拡大効果は頂間距離、あるいは“中和”されている要素間の隔たりによるのです。珍しい特徴をもった特定の頂間距離があります。その距離は目の前焦面に矯正レンズを置くところであり、角膜からおよそ15mmです。